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第5話 ボッチはボッチなりに【1】

Auteur: 十色
last update Date de publication: 2026-07-02 16:34:40

(結局、一睡もできなかった……)

 あれから、僕は全く寝付くことができなかった。それで今、掛け時計を見ると、午前5時を回ろうとしていた。朝の光がカーテンの隙間から入り込んできて、今日はやけに眩しく感じる。そして、暑気も。夏が近付いてきているのを肌で感じられた。

 けれど、僕の気分は相変わらずの梅雨のまま。心の中がジメジメとし、全く明ける気配を見せてくれない。

 そして、思い出す。昨夜の出来事を。その度に、胸の中がざわついて感情の渦の中に呑み込まれていく。

『憂くんの、バカ』

 葵のあの一言が、脳裏に焼き付いて離れない。何度も何度も頭の中で繰り返される。怒っていたのだろうか。照れていたのだろうか。悲しかったのだろうか。その真意は、今の僕には分からない。

 でも、人間が発する言葉には、必ずその人の感情という名のフィルターがかかって、何かしらの意味や意図が含まれているもの。浅いか深いかは別として。

(駄目だ、全く分からない)

 様々な感情が頭と心の中でぐちゃぐちゃになり、上手く思考ができなくなってしまっているのだろう。半分混乱気味と言ってもいい。

 自分自身の気持ちですら理解できないだなんて。情けない……。

(でも、葵のやつ、本当に一体何を考えてるんだろう?)

 あの時の囁きが、僕の中でどんどん大きくなっていく。生き地獄だとは言ったけど、まさか悪魔まで出てくるなんてね。

 葵の言葉。

 あれはまさに、小悪魔の囁きだ。

 チラリと葵の方を見やる。すーすーと、気持ち良さそうに寝息を立てていた。

 僕は葵の寝顔を見るために、起こしてしまわないよう気を付けながら静かに近付いた。葵の寝顔は少し笑っているように見えた。楽しい夢でも見てるのかな。

(やっぱり可愛いな。見なきゃよかった)

 寝込みを襲うなんてことはもちろんしない。でも、一ヶ月間だよ? これがずっと続くのかもしれないんだ。果たして僕は、どこまで我慢できるのだろうか。

(この笑顔を独り占めできる男子ができるかもしれないんだ。羨ましいよ)

 僕はすくっと立ち上がり、静かに着替えを済ませる。そして、葵に気付かれないように、一度自宅へと戻ることにした。

 自分の心を、葵の枕元に置きっぱなしにしたまま。

 *   *   *

「うう……どうしたらいいんだよおーー!!」

 家に着き、自室に入るや否や、僕はベッドの上で号泣。こんなにも泣きじゃくる高校生なんていないってば。いや、一人がいるか。ここに。

「こういう時に相談できる友達がいたらなあ……」

 これぞボッチの宿命なり。ボッチあるあると言ってもいい。どんなに悩んでいても、一人で自己解決するしか道がないのである。でも、見つからないんだ。これからどうしたらいいのか方法が分からないんだ。それに、何かを思い付いたとしても、それが最適解かどうかも分からないし。

「――ん? なんだろ」

 ローテーブルの上でバイブが振動している。スマートフォンだ。僕に連絡してくる人間なんて親くらいしかいないはず。

「あっ! もしかしたら――!」

 僕はスマートフォンを素早く手に取って、表示画面を確認。

「いた! いたじゃん! 相談できる人!」

 誰からの連絡だったのかというと、SNSで繋がっている人からだった。これもボッチあるあるのひとつ。僕みたいな人間はインターネットで心の寂しさを紛らわすしかないんだ。言うなれば、心のオアシスって感じ。

 ……インターネットが心のオアシスって、寂しすぎるでしょ。

「あ。でもちょっと違うか」

 もうひとつだけあった。僕にとっての心のオアシスが。

 それが、葵だ。

 葵の明るさ。優しさ。笑顔。ちょっとおバカなところ。その全てが僕にとってのオアシスになり、癒やしにもなっている。

 だからこそ、失いたくないんだ。もし葵が僕から離れていってしまったらと思うと、悲しいどころか生きる気力までも一緒になくしてしまうかもしれない。その想いが強いせいで、僕はいつまで経っても葵に告白できないんだろう。

 大切なものを失うのは、怖い。

「でも、オアシスかあ。葵にとっての心のオアシスってなんなんだろう」

 少しだけ考えてみたけど、分からなかった。でも、ひとつだけ、ハッキリと言えることがある。葵が恋をした相手と付き合うことになったら、それがアイツにとっての心のオアシスになるということが。

「マズい……また泣きそう。僕は暗いし、ネガティブ思考だし、豆腐メンタルだし。どうせ葵から好意を抱かれることなんか――って、ダメダメ!」

 僕は雑念を振り払うが如く、頭を勢いよくぶんぶんと振った。今はジメジメモードに入ってる場合じゃない!

 と、いうわけで。僕はアプリを開いた。すると、『チクタ』くんからメッセージが届いていた。

「よ、よかった……」

 僕が使っているSNSで一番仲がいいのがチクタくん。知り合ってからもう一年近くになるのかな。何故だか気が合うんだ。

 まあ、理由は分かってる。交流を続けていく内に、チクタくんも僕と同年代だということが分かったから。年齢が近いから話題が合ったんだろう。至極当然なことだ。そして、それが縁となって、よくやり取りをしていた。だから僕にとって、彼は一番相談に乗ってくれそうな相手だった。

 で、届いたメッセージの内容なんだけど、『久し振り。最近どうよ?』という短いものだった。でも、『どうよ?』と訊いてきてくれたおかげで自然な流れで相談できる。恋愛相談をするのは初めてだからちょっと気恥ずかしいけど。

 でも、チクタくん自体は、よくSNS上で恋愛についての書き込みをしているのを知っている。だからこそ、今回の恋愛相談の相手としては最適なんだ。

「うん、とりあえず相談してみようっと」

 藁にもすがるとはこういうことを言うんだなあ、と思う今時分である。

 でも、こうなったら恥も外聞もない。

 とにかくチクタくん。僕を助けておくれー!

【続く】

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